夫以外

彼の名はユウキと言うんだってことを、あたしは事の後に聞いた。

ユウキが後ろからぎゅっと抱きしめてきた。
あたしが服を着ようと起き上がろうとした瞬間だった。

「きゃっ」
あたしは少し驚いた。

「どうしたの?」
少し振り返ったら、ユウキがあたしの背中に顔を埋めて
あたしのおなかに手をまわしてきた。

「俺、マサキさんが好きだ。ずっと気になってた。
ほんとは。」

あたしの心臓がどくどく言ってて、緊張しているわけでもないのに、
どくどく言っていて、
ユウキが
「ドクドクしてる」
と言った。

「だから、嬉しい。こうなれて、すごく嬉しい」
ユウキはおなかの手をあたしの胸に伸ばしてきて、
嬉しそうに「嬉しい」といってそれを揉んだ。
「やわらかい」
って言いながら。

あたしも嬉しかった。
恋愛ってこんなにふわふわして、楽しかったっけ?

ユウキに彼女がいても、あたしに夫が居ても、別にそれと
これとは結びつかないような気がした。

ユウキが、こんなに甘えん坊な一面があることも初めて知った。



あたしは、深夜自分のマンションに帰って、風呂に入った。
家に帰った途端、自分がやったことにドキドキした。
夫にばれるわけでもないのに、何だかそわそわした。


ユウキに抱きしめられた事を思い出すと、甘酸っぱいような感覚がして
鼻の奥がつーんとなった。

翌朝。
夫が帰ってきて、「寝る」と言ったっきり彼は寝室に閉じこもって寝ていたので、
あたしはクリーニング屋に行った。

いつもの日常。

あたしの。

彼の。

つまらない日常。

彼のスーツと自分のワンピースと、そういうものを抱えて、あたしは
6階の我が家へ帰る。
いつからだろう。
旦那を見ても、何も思わなくなったのは。