臆病でずるい女

電話が鳴った。

お昼間だったので、勧誘なんかの電話かと思ったら、
友人Aだった。

「どうしたの?」

「今度うちでバーベキューしよっかってヒロくんと言っててねー」

Aは自分の旦那のことを「ヒロくん」と呼ぶ。
まだ新婚の域の二人。
Aは、マンションではなく一戸建てに住んでいるから、そういうことも
できる。
Aは、あたしの高校来の友人だけれど、あたしたちはいわゆる
「お嬢様学校」といわれる所に行った。
あたしは普通の家だったけれど、Aは本当にお嬢様だった。

結婚しても、家柄ってモノは左右するらしく、
Aの一戸建ては、彼女の両親が建てたもの。
旦那さまの稼ぎでは到底無理だと、Aがからからと笑って言った。


夜。
あたしは、夫にその事を告げた。
「Aが、家でバーベキューをするって言ってるんだけど、
〇日行けるかなって。その日は休みだよね?」

テレビを見ていた彼が
「仕事が入るかもしれないし、俺はいいや」
と言った。
仕事っていうのは言い訳で、行きたくないんだ。
そう思ったら、どっと疲れた。

Aと、昔言っていた。
「どっちもいつか結婚してー、夫婦共に会ったり、バーベキューしたり、
仲良く出来たらいいよね?」

あれから10年以上が経ち、そのときがやってきたけれど、
あたしのパートナーはそういうことを望んではいなかった。



思った事を、ぽんぽん言うのが苦手だ。

あたしは、一度飲み込む癖がある。
飲み込んでしまうと、もう、言葉を吐くのもいっかーっという
面倒くさいような気になってしまって、結局のところ、あたしはものを言わない。

あたしは、すべてのことにエネルギーを注いでいけるタイプでも
ない。

もし、あたしが後先省みず、噛み付いたり怒ったりできたのなら
あたしと夫の今の関係も変わっていたのかもしれない。

夫と22で結婚したこと。

後悔しているのか、していないのかさえ、結局のところ、
あたしは分からないのだ。

どこかで、ユウキの存在でそれを確かめたいのかもしれない。
とてもずるい女。


ユウキのことがとても気になる。
一緒に居ると、とてもほっとする。
心地いい。

だけど、一方で、あたしは家庭を壊せないこともわかっている。
これはあたしの性分みたいなもの。

それを壊す日がくるのかどうなのか
あたしにもわからない。





ユウキと会ったのは、次の日だった。
雨が降っていて、買い物に行くのも面倒だなあーーっと思っていた。

雨が止んでから・・・と思っていても一向に止まないし、
クリーニング屋にも行かなきゃいけないし。
傘を差して、渋々出かけた。


クリーニング屋さんを出たとき、コンビニからユウキが出てきた。
一週間ぶりくらいに見た。

ユウキはビニール傘をぱっと開いて、こっちに小走りにやってきて、
少し笑った。

きょとんとしているあたしに向かって、
待ち伏せしててよかった」
と言った。

あたしは、ほとんど泣きそうになりながら笑った。小さく。
不器用な人なんだと思う。